学校施設を取り巻く音環境
小学校、中学校、高等学校といった教育現場において、建築空間の音環境は教育の質に大きく影響します。このため、日本建築学会は2008年に「学校施設の音環境保全基準・設計指針」1を出版し、学校内の各種施設における発生音の大きさや、必要とされる静けさ・響きについて指針を示しています。さらに2020年にはこの指針が改訂され、保育施設における音環境や、音響的に特別な配慮を必要とする子供たちのための環境づくりについて追記されるなど、学校内の多くの空間において音環境の指針が整備されてきています。
指針のないトイレ空間の音環境
学校施設の音環境指針が充実してきている一方で、その中にトイレ空間についての言及はありません。村上の研究2では、排泄に対する羞恥心が男女ともに小学生時期に最もピークを迎えることが示されています。この羞恥心や排泄の我慢の背景には、「排便は学校ではしないもの」という暗黙の了解があり、男子は「からかいやひやかし」を恐れ、女子は排泄していることを推察される行為や排泄音に対する「恥ずかしさ」を感じていることが明らかになっています。
また、LIXILが小学生から高校生を対象に行った調査3では、学校での大便について「どうしてもガマンできない時だけする」(44%)、「絶対にしない」(9%)と回答する生徒が多く、学校生活におけるトイレ利用に関する制約が明らかになっています。その理由として、「他人に知られたくないから」や「落ち着かないから」などが挙げられ、周囲を意識することで排泄が妨げられていると考えられます。
こうした背景を踏まえ、私たちの研究室では近年、学校施設のトイレの音環境に関する大規模なアンケート調査4を中高一貫校で実施しました。その結果、多くの利用者が排泄音を隠したいと感じていることが明らかになりました。また、トイレ外への音漏れなど、建築的な対応が必要であることも確認されました。しかしながら、トイレの音環境はそもそも考慮されることが少なく、メンテナンスや経済的な事情から優先順位が低く扱われる現状があります。
トイレ空間においても音環境設計が必要であり、その指針の整備が求められます。現状では吸音や遮音がほとんど考慮されていませんが、適切な設計によってトイレの音環境を改善することで、利用者の快適性を高めるだけでなく、健康促進にも寄与する可能性が考えられます。
研究の中ではアンケート調査や擬音装置の仮設実験4,BGMの調整実験5などを行い知見を蓄積しています。

Footnotes
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日本建築学会, AIJES-S0001-2020 学校施設の音環境保全規準・設計指針, 2020 ↩
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村上八千代 , なぜ小学生は学校のトイレで排便できないのか? , 学校保健研究 46 号 , pp.303- 301, 2004 年 ↩
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LIXIL,学校トイレでの“ウンチ”は、「どうしてもガマンできない時だけする」「絶対にしない」 が “ 過半数 ” を占める結果に, https://newsrelease.lixil.co.jp/news/2013/120_newsletter_1119_01.html, 2013 年 ↩
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矢口絵理奈, 原田和典. 学校施設におけるトイレ空間の音環境に関する研究. 日本建築学会大会学術講演梗概集, 2022, p. 253–4 ↩ ↩2
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原田 和典, 矢口 絵理奈. トイレ空間に求められるBGM音量に関する実験的検討. 日本音響学会 騒音・振動研究会 資料 N-2024-21, 一般社団法人 日本音響学会 騒音・振動研究会; 2024. ↩